女性が働きやすい社会とオフィスデザイン

1. はじめに

日本は先進国の中で女性の社会進出が極端に遅れており、女性管理職も少なくなっています。特に結婚、出産による30代の離職率が高いことが特徴です。
2012年、第二次安倍内閣は成長戦略のひとつに「女性が輝く日本」を掲げ、「待機児童の解消」「女性役員・管理職の増加」「職場復帰・再就職の支援」を挙げています。女性の社会参加には子育て支援が欠かせないことを、政府も遅まきながら認識したと言えるでしょう。
オフィスデザインを考える歳、こうした政策が功を奏し、15年後には「女性が働くのが当たり前」という社会が出現することを想定しなければなりません。
では具体的に女性ワーカーは働く環境に何を求めているのでしょうか。都心のオフィスで働く子育て中の正社員、契約社員、派遣社員たちへのヒアリングから、次のような課題と提案が浮かび上がりました。

1-1. 立地 – 通勤時間が問題、周辺環境も重要

都心で働く子育て中の女性ワーカーにとって、通勤時間が大きな問題になっている。独身または子供のいない女性は「オフィスまで通勤時間1時間以内」を希望条件に上げる人が多いが、子育て中の女性は「通勤時間30分以内が理想」としています。子供を保育園や学校に送り届けてから出社し、迎えの時間や下校時間に間に合うように帰宅するには、通勤距離や通勤時間が大変重要です。
オフィスの周辺環境ではコンビニや医療施設などの利便施設のほか、徒歩10分以内にさまざまな種類の飲食店がある環境を臨む声が多くなっています。子育てと仕事を両立する女性ワーカーにとって、ランチは大切な息抜きと楽しみの時間になっています。

1-2. 設備 – 子育て支援施設の整備を

子育て中の女性ワーカーからは、オフィスビル内に子育て関連施設の整備を求める声が多くあがった。「オフィス内に保育園があっても、通勤ラッシュがネック」という声がある一方で、「学校行事の代休の時、連れてきてもいい場所があるとありがたい」という声もある。総じて「大掛かりな施設でなくとも、一時保育、一時託児ができる場であればいい」という意見が多い。
また妊娠中や育児休暇復帰後などに横になって休んだり、授乳できる休憩室が欲しいという意見もあがっている。

1-3. ソフト – 働きやすさを左右する就業規則や福利厚生

出産するまでは男性と遜色なく働いていた女性でも、出産を機に退職するケースはいまだに多くいます。「残業が当たり前」という環境で、子育てと仕事を両立することは女性にとって心身ともに相当な負担であり、子育て期を乗り切ってでも長く働きたいという女性は少なくなっています。
特に、子育て中の女性は在宅勤務制度のニーズが非常に高く、サテライトオフィス、シェアオフィスなどと連携して自宅周辺で仕事ができれば育児との両立の可能性は高くなります。
また、有給休暇に対する要望も強くなっています。1時間単位で有給が取れる制度や短時間勤務が可能な期間を柔軟に設定できるなど、ソフト面の子育て支援制度が望まれます。保育園は預ける時間の融通ができますが、小学校ではできないため、定時出勤を断念したケースもありました。あるキ魚では、子育て中の女性がチームになり、子供の急病などで休みをとる仲間をみんなでカバーしあう制度を設けています。
こうした要望を吸い上げて、女性が働き続ける環境を作っていくには、子育てや介護などの事情を抱えたワーカー同士が交流したり、助けあう機会と場を設けたりすることが有効です。その中から、さして費用をかけなくても実現できるアイデアが生まれてくる可能性があります。こうしたコミュニティやネットワークを企業内だけでなく、オフィスビル内や街という単位で広げていきう可能性も模索する必要があります。

2. 15年後、女性が当たり前に働き続けるために

現在の女性ワーカーのナマの声から、15年後に女性が出産後も当たり前のように働き続けられるためのキーワードをひろってみましょう。

2-1. 「通勤レス」 – 場所を選ばない働き方へ

通勤レスの働き方を社会全体で考えていく必要があります。ひとつは「職住近接型の都市構造」です。都市中心部を複合用途の街に再生すれば、もっと多くの人が都心に居住できます。もうひとつはICTを活用した「場所を選ばない働き方」です。「どこでもいつでも」という働き方はすでに技術的には可能だし、一部では導入している企業もありますが、15年後にはICTの進化によってごく普通にできるようになるかもしれないです。
通勤苦から開放される恩恵を受けるのは子育て中の女性だけではありません。親の介護や家族の怪我、病気、高齢者の社会参画、さらにはワークバランスという面からも多くのワーカーにとってメリットがあります。さらに、夫の転勤のために優秀な女性ワーカーが退職せざるを得ないといった状況も防げます。企業にとってもメリットが大きいはず。

2-2. 「チームでカバー」 – 子育て中の女性が助けあう仕組み

子育てをしながら働く際に最も大きな問題となっているのが、子供の病気や怪我で「突然休む」場面です。しかもそうした自体が頻発する可能性もあります。特定伝染病にかかれば、規定の期間が登園・投稿できないし、学級閉鎖という自体もありえます。
前述した企業のケースのように、子育て中の女性でチームを組んで業務に当たる制度や組織があれば、不安や後ろめたさが薄らぎ、事情がわかる者同士でカバーしあえます。また、ICTを使って業務に関する情報や進捗を常に共有できるようにしている企業も増えています。情報を共通する仕組みを構築することは子育て中の女性にかぎらず、あらゆるワーカーもとって有用であり、組織知の蓄積にも役立ちます。

3. イキイキ働く母親の姿が未来を担う働き手をつくる

子育て中の女性を支えることは、未来のワーカーを育てることでもある。現在の日本では「女性の社会参画」という点に視点が置かれ、子供の権利にはあまり目が向けられていないようです。子育て期は、将来を担う人間を育てる大切な時期でもあり、親が働くために子供を他人や施設に長時間預けられればそれで済むというものではありません。
現在の子育て世代の女性は専業主婦の母親に育てられた人が多く、親の価値観に影響されて専業主婦願望を持つ女性もいまだに少なからずいます。しかし、15年後に中心的なワーカーになる世代は、共稼ぎ家庭で育った人が多くなるはずです。イキイキと働く母親の姿に憧れや共感を持って育った子供は、きっと自分も母親と同じように働き続ける道を選ぶでしょう。
子育て中の女性を支えることは、女性がイキイキと社会に参画する世の中を作ることであり、未来に働き手を育てることにも繋がっていきます。

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